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魚屋さんの想い出

可愛いい、可愛いい魚屋さん♪

2坪程の敷地にある店舗を横切ると、思わずあの懐かしいメロディーを口ずさみたくなる・・・

そんなこじんまりとした魚屋の店主は、我が住む町一番の人気者。

藍色のハッピ風作業服を身にまとい、魚屋お決まりのねじり鉢巻とはいかないまでも

手ぬぐいを小粋に腰にぶらさげる。

じっとしていることが苦手なのであろう、店の外に出ては道行く人と歓談している姿ばかり思い浮かぶ。

そうした場面には、いつも献身的に店を手伝う奥さんがいた。

微笑みながらごく自然に客との会話に溶け込んでいた。

魚屋さんに通えば、町の情報通になれる!それほどホットな話題をいつも提供してくれた。

その人間集団の前を、野良猫の親子が堂々と登場する。

私のように猫嫌いにはいささか堪えるが、いつものシーンである。

主人の話では店の始まる前、つまり40年以上も前より、猫の祖先はこの辺りで暮らしていたとのこと。つまり、猫は先住民であるからその権利は守られるべきと主張する。(つまりは、無類の猫好きでもある。)

これまで主人が野良猫に残った魚を与え続けてきたものだから、途絶えることなく店に居ついてしまったようだ。

時に行列が出来た時期もあったとか?

『そいつが人間であったら・・・』とは、いかにも人の良い店主の語りである。

白髪交じりの頭髪を整備を尽くした芝生の如く、角を尖らせ刈ることが自慢であった。

横一文字にくっきりと生え揃った眉毛は、妥協を許さぬ真っ直ぐな性格を象徴していた。

しっかり開いた野性的な瞳は、美しいものをそのまま観るため備わったものだろう。

『オレ、もう治らない病に冒されているんだよ』

店主が呟いた一言が今も耳に残る。

それは、数週間店を閉めた直後に語った言葉であった。

あれから4年の歳月が流れた。

その間というもの、店主は入退院を繰り返した。

激しい外見上の変化を目の当たりにすると、副作用の強い薬で治療していることが容易に想像できた。

病院にいる時間が次第に伸びていく。

それでも正月の魚を顧客が待っているのだと、病院からその時だけは許可を得て、店を開けていた。

やがて、配達で使用する愛用バイクの姿が見えなくなった。

あれほど店の前を群がっていた野良猫の群れが、嘘のように消えた。

店のシャッターは閉まった状態が続く。

店先を通過する人々の流れが早足に変わっていく。。。

最後に店主の姿を見かけたのは今年の秋祭り。

自宅前のベンチで杖を掲げ座っていた。

その店主の目前にみこしが停まる。

すると、ご家族に両脇を支えられながらも立ちあがり声援を贈っていた。

元気な子供達がみこしをリズミカルに揺らす。

その間、店主はとても柔和な顔をしていた。

子供の頃の想い出を、記憶の中に重ねていたのだろうか・・・

そのみこしが視界から消えてなくなるまで、ずっと目をそらさず眺めていた。

祭りのあった日から2週間が経過。

けたたましいサイレンを鳴らし救急車が店主の自宅前に停まる。

やがて店主は車上の人となる。

最後に車に乗り込んだのは、横たわる店主を心配そうに見つめる奥さんであった。

『無事戻ってきてくれよ』心から祈る。

翌日道を通りかかると、魚屋のシャッターの前に店主の訃報を知らせる葬儀社のたて看板があった。

『駄目だったか・・・』

そのシャッターの前を猫が横切る。

共同購入車のスピーカーからは、いつもの陽気な音色が聞こえる。

見上げると抜けるように高い秋空。

店主の育てた黄色の花が、プランターの中で活き活きと咲き誇る。

来年度、この近くに大型スーパーが建築される予定である。

もはや、これほど味合いある店は出てこないであろう。

人が変われば、街も変わる。

だけど、良き想い出は記憶の中に大切に仕舞い込む。

人情味溢れる街の人気者と昭和の面影は、愉快な話題に包まれた数々の買い物シーンと共に、人々の心に残り続けよう。

また、お会いしたい。                      合掌

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