「そこの車、右側に寄せ停車しなさい!」
後にいるパトカーからのようである。
耳に突き刺さるけたたましいサイレンの後に
無機質かつ高圧的口調がスピーカーから流れる。
和やかな風景を瞬く間に冷たい空気に制す。
ドライバーでなくとも、日常的とは言い難いこの露骨な命令口調に
周囲は心を凍てつかす。
「私か?」
まずはその気持ちになる。そのほうが楽、辺りを見回すよりまず観念する。
考えることより先に心の動揺を見せてはならぬとばかりに
最低限の自己保全を最大の優先事とする。
「例え捕らわれても私ならなんとかなる!」
なにせ違反歴20回以上、免停歴有りのキャリアが物を言う?
しかしこの日は私でなく、すぐ後方の車が停められた。
「至極、気の毒である。」
しかし、私ではなかったことに安堵する。
(ここは正直な話しだ。)
その後、何もなかったように平常時の運転に戻る。
事故なら別であるが、先の出来事などは完全に他人事と化す。
しばらく経つと忘却の彼方に消えてゆくことが普段であろう。
何故なら毎日、しつこいほどの違反現場とパトカーの追跡を路上で見かけるからである。
さて、話しを元に戻す。
路地を曲がり直ぐの所に予定していた訪問先があり停車する。
少し経つと私の車の後にパトカーと違反により停車を命じられた先刻の車が停まる。
パトカーより若い2人の警察官が降りてきて、違反したドライバーに駆け寄る。
「進入禁止違反か?スピードではあるまい・・・」
その現場を後にして訪問先に入り1分程で用事を終えて車に戻る。
すると、警察官に体を張って精一杯の抗議をしている小柄な中年男に再び目が留まる。
商用型バンに乗り、身なりも清潔である。一見で営業マンらしく思えた。
「だから・・・何回も言っているじゃないですか、電話なんかしていないですよ。」
体格の良い2人の警察官はこの小柄な男を仁王立ちで囲む。居丈高な態度である。
「それでは携帯の着信履歴を見せてもらっていいですか?」
「どうぞ見て下さい」
男は携帯電話を無造作に渡す。
「こうやって見るのです」
憮然とした表情であるが、しっかり事態を受け止めた堂々とした態度である。
(何も事情を知らなければ、警察の捜査に協力する善良なる市民か?と勘違いしたくなる。)
「ほら、○○からの電話が1時間前、私の最後の発信は30分前、これでわかったでしょ」
携帯電話を操作し、身振り手振りを交えつつ無実を叫ぶ男に対し警察官の一人が発した言葉に驚く。
「バッグの中を拝見させてください」
バッグに別の携帯電話を隠し持っているかもしれないとの推理か・・・
一体どこまで疑えばよい?
ここまで堂々とした男の態度に、2人の警察官は清々しさすら感じないらしい。
「重大犯罪でもないのに、まさかバッグの中身まで調べることはすまい。また、この男は応じないのではないか。」
私はそう考えた。
だが・・・事実は異なる方向へ進む。
「どうぞ見てやって下さい」
少し考えた後、男は厳しい視線を2人に送りつつ吐き捨てた。
それからの警察官であるが、最初は遠慮がちに次第に執拗に男のバッグに手を入れかき回していた。
目を疑いたくなる光景であった。また、端から見てその行為そのものが不潔で挙動不審に思えた。
別の携帯電話が見つからないことに焦り始めたのか・・・
その態度を読み取り、その後男が見せた態度は圧巻であった。
車のシート目掛けてエイヤと言わんばかりの勢いでバッグをひっくり返したのである。
何もそこまでして潔白を証明しなくとも・・・しかし、男の態度は真剣そのものであった。
この後、しばらくして警察官は何かを男に告げてその場所を離れる素振りを見せた。
男は無表情に警察官を見やりながらつぶやく。
「分かってくれればいいのです。」
時間の無駄をさぞや取り戻したいだろう。また、とてつもなく不愉快な気持ちでいるだろう。
男が実に気の毒に思えた。
またほんの数分前、この出来事を記憶から抹消しようとしていた自分を責めたい気分になる。
2人の警察官はお互いの顔を見合わせて暫くさえない表情を作った後、
車に散らかしたバッグの中の荷物をしまう男の背中に向け警察官が投げかけた言葉が耳から離れない。
「悪く思わないでください。車を停めることが我々の仕事なんで・・・」
「???」
緊急の際、瞬時に現場における行政の執行人として、また法を守る番人として
治安を守り続ける警察官。
時には命も省みず正義のために力を尽くす尊い仕事である。
その絶対的な権威は、民には常に、公正な判断を求められる立場にある。
危険回避のため交通ルールを遵守させる指導は必要であろう。
そのためルール違反した人を罰することも再発が多発するのであれば止む終えないであろう。
(自分も過去に散々お灸をすえられたことで、近頃ようやく大人しい運転をするようになった。)
だけど彼らも人の子、判断を誤ることがある。
犯人逮捕の権限や権威は言い換えると犯罪者、違反者として
簡単にレッテルを貼ることが出来る仕事ともいえよう。
いわゆる犯罪印(マーク)の総発売元である。
しかし権威を手にする彼らが万が一、無実な人間を追い込むことがあれば思わぬ悲劇につながる。
権力を行使する際に一瞬の判断が必要な場合もあろう。
こうした自信がなければ犯罪者を見逃してしまう。
また見逃せば更なる惨事を招きかねない。
しかし誤りがある場合・・・
その時に限り同じ市民の立場として考えて欲しい。
これから裁判に一般人が立ち会い審判する制度が始まる。
個人的にいえば先進国でアメリカと日本に限られる死刑制度をまず廃止してほしい。
それから後に一般人を審判に招致すればよいと考える。
裁く立場側に長くいると法制度の疲弊を感じることもあろう。
1つとして同じ犯罪はない。しかし過去のものと全く適応しない類の犯罪ではその都度、裁く側は与える罰則に困惑しなくてはなるまい。
だからといって国民をランダムに・・いやランダムだから良い!
この制度は審判する側と、私をはじめとするいつ審判されるかもしれない側の垣根を低くする意味で
賛成している。もともとはとてつもなく大きな壁が存在した。
勿論被告にならない限り?出席して意見を言いたい!
さて、今回私が目撃した国家権力の誤発動であるが、勿論そう滅多にあることではないだろう。
しかし、現実に目の当たりにすることになった。
こうした誤った判断を冷静に分析し、いかなる時も憲法の下で人権を擁護する訓練を国民としてつむ必要性を感じる。
それがもうすぐ始まる裁判員制度に意味を与えることになることと願う。
最近のコメント